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【アイヌ民族とこの映画について】

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アイヌ民族━━。
南の先住民族である琉球民族に比してその存在感はマイナーで一般には誤解も多く、

ともすれば【失われた民族】などといったネガティブなイメージで捉えられがちである。

また、そうでなければ【自然と共生する民族】【すべてを神として敬う】
といったイメージが強調され、美化され偶像化されてもいる。


アイヌ民族を扱った近年のドキュメンタリー映画では『TOKYOアイヌ』(2010年)
が関東に住むアイヌの実情と先住民族としての権利獲得を目指す人々を描き、
『カムイと生きる』(2011年)があるエカシ(長老)のキャラクターを通じて
後者のアイヌ観を描いたといえる。
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本作品では前掲の2作とは全く別の視点で、【唄】をキーワードに
ごく普通の母親でもある2人の歌手を描く。

2人は共に現代アイヌ音楽における実力者ではあるが、肩肘張らず自然体。

その『超天然』ともいえる姿が2人の魅力でもある。

その歌声、楽器の音色には祖先から連綿と受け継いできた魂が確かに宿っている。

唄は何処から生まれるのか。歌うこととはなにか。

そんなことを個性豊かな2人の生活を通じて描きたい。
それは「民族」の括りを超えた「ニンゲン」としての普遍性を描くことになるであろう。

また近年、マイノリティヘイトの一環としてアイヌ民族否定論が台頭し、
一部で激しい論争が起きたことも記憶に新しい。
本作品を「否定論」に対しての「やわらかな反論」ともしたい。

【アイヌ民族】

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かつてサハリン、千島列島、北海道から東北地方を中心に居住していた
北方の民族だが、江戸時代から明治にかけて和人による同化政策のもと
人口は減り続け、今ではおよそ3万~5万人が北海道を中心に
「日本人として」生きている。
同化の過程で差別と弾圧を受け、独自の文化も言語
(アイヌ語:ネイティブの話者はすでに存在しない)も失われてきた。
1970年代よりアイヌ民族復権運動がわき起こり、
現在ではアイヌ語や伝統の木彫、刺繍といったアイヌ文化を学ぶ人も多い。

【阿寒湖コタン】

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北海道・道東のほぼ中央、マリモで有名な観光地・阿寒湖温泉の中核をなす商店街。周囲には民家が密集し約100人のアイヌ民族が暮らす。
白老や平取など多くのアイヌが暮らす土地は他にもあるが、阿寒湖コタンは【世界一アイヌ人口密度の高いところ】と云える。
一本の坂道からなる民芸品店街にはアイヌの伝統的家屋が再現され、
アーチの上からは巨大なコタンコロカムイ(シマフクロウ)が町を見下ろしている。

【映画ができるまで】

監督・佐藤隆之は約20年、数々の劇映画に助監督として参加。

ある映画の撮影で出会った阿寒湖のエカシ(アイヌの長老)の存在感に圧倒され、

いつかはアイヌの映画を自分の手で、と願っていた。

2008年頃から東京や阿寒湖のアイヌコミュニティの人々との付き合いが始まり、

若者グループ「アイヌレブルズ」に取材してオリジナルシナリオを執筆する。

2010年夏、親交のあった木彫家・藤戸幸次氏の急逝にショックを受ける。

その後、かねてからその歌声と存在感に惹かれていた
絵美/富貴子姉妹のドキュメント撮影に取り掛かる。

撮影/編集に約5年をかけ、文化庁の助成金を得てついにこの作品を完成させた。